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比較芸術学(仮) 

 いつか必ずまとめようと思っていることがある。それを何と名付けようかもまだ決まっていないのだけど、少なくとも5~6年前には、その視点で自分の考えをまとめてみたいと思っていた。

 ここでは仮に『比較芸術学』と呼ぶことにする。これは、数ある芸術-表現手法-を体系的に分類することを目的とした一つの論考だ。なぜ自分がこのようなことに執心しているか、明快な答えは無いのだけれど、偽善的に答えれば学生時代に専攻していたのは生物の分類学であるし、偽悪的に答えれば届かない芸術家への憧憬ということになる。

 この『比較芸術学』の骨子は非常に簡単である。数ある表現手法は、以下の根源的な3つの要素に分類される、というものだ。
①空間的要素
②時間的要素
③意味的要素
 例えば、一枚の絵画は、その表現領域を(主に)二次元空間に展開した空間的芸術である。同様に、原始的な音楽は、一定時間の中に展開された時間的芸術である。③の意味的要素というのは、言語などの累積される「意味」を連ねて作る芸術で、詩や文学が当てはまる。これら3つの要素には積集合もあって、①と③が重なると漫画になり、そこへ②が加わると映画になる。

 以上が『比較芸術学』の基本的な考え方だ。同じような視点はどこかの学者が、もっと綿密な分析の元に構築していると思う。けれど、これは時間がかかっても自分で完成させたいと思っている。

 さて、この論考の目的は、基本教義のもとに様々な表現手法を分類し、その過程でこの比較芸術学に論理的整合性を持たせることである。まずは世の中の様々な手法を題材に考えていこうと思う。


■Case1-文学の可変性と不変性-

 繰り返しになるが、文学は意味的要素によって成り立つ表現手法である。確かに、紙という空間上に展開されてはいるが、それが音声で表現されたとしても、その芸術の持つ「意味」は不変だろう。また、時間をかけないと読むことが出来無いものだけれども、速読を習得した人間とそうでない人間では芸術を消化する時間が異なる。時間の消費に依存しない手法であるということだ。

 そんな文学の性質は、「情報」に置き換えることができる。情報は、その発現する場所に依存せず、常に一定である。1+1がある前提条件の下では必ず2になるように、芸術という極めて物理的な領域において、特異な存在であると考えている。その意味で、文学は不変である。

 ただし、明確に定義付けられた数学と異なり、文学には定義が存在しない。例えば外語翻訳。確かに、翻訳されたとしても、プロットは変わらない。けれど、その文学性は大きく変化してしまう。最も判りやすい例で言えば、その言語特有の言葉遊びやジョークなどは、どう翻訳しても100%を伝えることはできないだろう。日本語の「拙者」も、海外では訳す言葉が無いように。では、翻訳が必ずしも原著より劣るかと言うとそうでもない。有名な話で、夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したように、翻訳する側の文化で以って作品全体に漂う空気感を翻訳することは可能だ。しかし、その領域まで来ると、その翻訳作業は一つの偉大な芸術作業と言える。

 また別の例では、朗読が挙げられる。これも、原理は作品に書かれた文字を読み上げるだけで、情報は不変だ。けれどたとえ原著を読んだとしても、音声に変えれば抑揚が入る、感情が入る、そして声質も重要だろう。最近では朗読を題材にした漫画が注目を浴びるなど、その芸術性が見直されている。そうなると、朗読はもはや意味的要素だけでなく、時間的要素を持った別の芸術であるとも言える。
このように、文学は原理的には不変のはずが、実際のアウトプット段階で様々なものにバイアスを受ける。それこそ、フォントや書籍の紙質も重要だろう。この文学の可変性は、どうしてもそれを受け取る人間が、芸術の消費に空間と時間を必要とする、という物理的な限界が存在するからとも言える。そう考えると、真の意味的要素だけで構成された文学と言うのはイデア的存在で、表象として現れる時にはその影だけになっているのかも知れない。

 話はかなり飛躍するが、こと物語と呼ばれるものは、大昔の神話の焼き直しとも言われる。それこそミステリーやSFの類は神話には描かれなかったかも知れないが、そこで展開される人間の起承転結は、いつの時代も大きく変わらない。……さすがにこれは話を広げすぎた。

 もう少しレイヤーを落とした分類として、純文学、ミステリー、SF、官能小説など、各種文芸の構成要素を見ていくのも面白いと思う。どれも意味的要素の連なりではあるが、ミステリーはパズル要素、SFは世界観構築要素、官能はリビドー訴求要素と、それぞれが重きを置く要素は異なる。それについては不勉強なのでまたの機会に。

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